ネット広告は企業が、商品を売るために使うもの。そんなイメージがあるかもしれません。しかし、ネット広告にはもっともっと大きな可能性があります。そこで今回は、認定NPO法人ADRA Japanのファンドレイジング担当山本さんに、非営利団体のネット広告の活用法とその可能性について伺ってきました。
山本さんは、2011年3月から正式にADRA Japanのスタッフとして勤務を開始。元々は、Webともマーケティングとも関係ない消防士だったそうです。
山本さん:NPO法人ADRA Japanは、世界120カ国で、途上国をメインに開発支援、緊急支援を行うNGOです。
緊急災害が起こった時には被災地域へ、それ以外の時は途上国への寄付の募集のために、Googleが提供する非営利組織向けのネット広告サービス「Google Ad Grants(グーグルアドグランツ)」を使っています。
Google Ad Grantsは、NPO法人は1ヶ月に1万ドル分の広告を無料で使えるサービスです。ADRA Japanはこの5月より「Google Ad Grants Pro」という認定をいただき、予算の上限を上げていただき、現在は毎月だいたい150万円ほど広告費を使っています。
例えば熊本震災の時は、「熊本震災 寄付」のようなキーワードをネットで検索したユーザーに対して、寄付ページをリスティング広告として検索結果の中に表示して、結果としてWebからだけでも100万円以上の熊本地震の寄付を集めることができました。
広告を使ったことで、Web上での団体の認知度も上がり、月間のWebサイトの訪問者数は、以前と比べると7~8倍になりました。
他にも、Webからの新しい寄付者と出会うこともできました。例えば、ちょうど学園祭シーズンでチャリティー先を探していた高校生から「検索したら上の方に寄付のページが出ていたので連絡しました」と言われたこともあります。これまでは高校生からの寄付をもらったことがなかったので、あらためてWebの力を感じましたね。
そこから別の緊急支援の寄付金集めもネット広告で成功したので、「もっとWebを活用しよう」というふうに社内の雰囲気に変わっていきましたね。
今、寄付のページを作っているのは私や団体の別のスタッフですが、どちらもWeb自体は素人で、それこそ手習いのような形でどんどんページの作り方を覚え、広告の使い方もインターネットで調べて、少しずつ改善をして…というのを楽しみながら、淡々と続けて、今にいたります。
山本さんが作成している支援者の方とのコミュニケーションレベルのピラミッド。ピラミッドの上へ行けばいくほど、ロイヤリティの高い支援者になるそうです。
緊急支援の寄付では、ニュースを見て被害を知る方が多いので、その報道のタイミングで何かの情報を出すことが何より大切です。
例えば、災害が発生し私たちの団体がその災害の支援をすると決めたら、早いと5~6時間、平均でも大体1日以内には寄付ページを立ち上げて、寄付金募集を始めます。その時は、とにかくテレビにかじりついて情報を集めていますね。まさに、スピードが命です。キーワードも、テレビで多く取り上げられているものや、関連ワードとして検索されているものやGoogleトレンドで注目されているものを調べて入れています。
また、こういった場合の検索で使われるのは多くはスマートフォンです。そのため、最近は寄付ページの閲覧や決済がスマホでできるように作っています。これによってユーザーからの使いやすさだけではなく、Googleからのネット広告への評価も上がるので、一石二鳥ですね。
また、緊急支援以外では、Web上では、まず国際協力への興味喚起や私たちの団体との接点をつくることに重点をおいています。
ADRA Japanとの接点がないような方向けには、まずメールマガジンの登録やイベントへの参加というハードルの低い機会を用意しています。
最近では、「シリア問題」についての映画の上映会や海外の料理の食事会などを開催しました。この集客にも、映画のタイトルを検索した人向けに広告を設定するなどの工夫をしています。このようにオンラインで集客をして、オフラインで関係性を高めていって、というのが今のネット広告の活用方法です。
LISKUL編集部:お話を聞くと、マーケティングの全体像を捉えて、本当にうまくネットを活用されていると思います。ここまでで、苦労された点などはなかったのでしょうか?
山本さん:そもそもGoogle Ad Grantsには、一般的な企業が使うリスティング広告とは違った難しさがあります。
広告費は無料で使えますが、1日に使える広告費は329ドル(約32,900円)でクリック単価の上限も2ドルという意外と厳しい制限があります。つまり、広告を出したくても、なかなか沢山はうまく出せないことも多い。私たちも最初は、広告を使いたいのにこの制限で思ったほどは使えないということに苦労していました。
その対策として、広告を出稿するキーワードはダメもとでたくさん設定しています。といってもニッチ過ぎるキーワードは検索がされず、広告も表示されない。なので、みんなの興味がありつつ、企業が購入しない少し変わったキーワードで、自分たちの出会いたい方が検索しそうなものを常に考えています。
例えば、古本を寄付いただくために、「古本 寄付」はもちろん、「小説 おすすめ」や「村上春樹 古本」、他にも「DVDレンタル」「図書館」や、もっと具体的に「医学書」「六法全書」などかなり幅広く設定します。この広告からは、Webから寄付していただく人が毎月必ずいらっしゃいますね
山本さん:過去にクラウドファンディングの企画をした時などに、お金を払ってFacebook広告や動画広告もやってみたことがあります。その時は、クリック単価も安いですし、クリック率も確かに高かったのですが、CVがあまりうまく取れず費用対効果では大きな成功にはなりませんでした。正直、寄付を広告で集める難しさを感じましたね。
でも、Google Ad Grantsは原資がかからない。だから、活用ができればものすごく意味がある。それにGoogle Ad Grantsは、寄付やボランティア募集のためにも使えますが、実はイベント集客などそもそもの認知度を上げるためにも使えます。これは非営利組織にとっては、とても意味があることです。
そもそも始め方がわからなかったり、広告を調整する人や時間が割けない団体も多いと聞きますが、使わないのは本当にもったいないと思います。
私たちもWebに力を入れ始めたのはここ数年のことですが、Web上での存在感はとても上がりました。よく広告代理店に予算を沢山持っていると勘違いされて営業の電話が来るくらいです。実は、無料の広告を出しているんですけどね(笑)
LISKUL編集部:今後、Webで挑戦していきたいことがあれば、教えて下さい。
山本さん:現在、Webで認知度向上や集客はできているものの、まだWebだけでサポートをしてもらえるような関係を作るにはどうすればいいのか?はまだまだ考える余地があります。
私は「寄付は心の動き」だと考えています。商品を買うのと似ていると思いますが、まず寄付先の存在を知ってから日常で色々あって、「ここに寄付がしたい」と思う時があって、寄付をしてもらえる。
なので、「Webから来たユーザーが、どういうふうに定期的に寄付をするような関係につながっていくのか?」を、もう少し突き詰めていきたいです。
そのために、同じく非営利団体向けに特別価格で提供されているマーケティングオートメーションツールなどを入れることも検討しています。今後は、現在のリスティング広告だけではなく、リターゲティング広告やFacebook広告、動画までうまくつかって…という高度なWebマーケティングまで挑戦してみたいと思っています。
LISKUL編集部:ぜひ、多くの非営利組織の方に、ネット広告などの技術をうまく使っていってほしいです。ありがとうございました。
非営利団体向けネット広告「Google Ad Grants」で、国際協力や被災地支援を
LISKUL編集部:NPO法人の方がネット広告をつかって寄付を集めるというのは、一般的にはイメージがしにくいと思います。どのようにネット広告を使われていらっしゃるのでしょうか?Google Ad Grants Proとは Google Ad Grants Proに認定されているのは、日本でもNPO法人ADRA Japanを入れて2団体のみ。認定のためには、広告の運用の上手さや費用対効果、長期的な活用具合など複数の方法で評価が行われます。PROに認定された団体は、最大で4万ドル(約400万円)の広告を使うことができるようになります。