新型コロナウィルスによる外出自粛によって在宅時間が伸びる中、YouTube動画を視聴する人が飛躍的に増加しています。年代の幅も広がっていることも受けて、いま広告業界では、YouTube広告への期待が高まっています。
しかし、インターネット広告に積極的に取り組んでいる企業であっても、YouTube広告を出すとなるとまだ躊躇する向きも少なくありません。
- TVCMを打つような大企業向けの広告じゃないの?
- 認知は取れても、直接コンバージョンでみるとCPAが合わない
- 昔、一度やったけど効果があったかなかったかもよくわからない
YouTube広告でクリックコンバージョンベースのCPAを1/3に改善
ー簡単な自己紹介をお願いします。 地方・中小企業の事業支援を行っているソウルドアウト株式会社で働いています。YouTube広告に関しては、営業、運用を経験し、現在は制作を担当しています。 プライベートでは、週末にミュージカルの活動を行っているのですが、新型コロナで公演自粛が続きましたので、自宅でショートムービーなどの動画を作ってYouTubeにあげたりしています。編集はもちろん、ナレーションも自分で入れたりして、意外と仕事にも役立っていると思います。 ―直近で最も大きな実績が出ている事例を教えてください。 自動車買取を事業とする企業様の動画広告は良い成果が出せた事例かと思います。 こちらの案件は制作の自分に運用からやらせて欲しいと社内で調整してもらって、一貫して担当させていただきました。 クライアント様はそれまでFacebookを主力媒体とされていたのですが、結果的にCPAを1/3に下げることができ、検索連動もFacebook広告と比べて遜色のない内容で、ご満足いただくことができました。スマホ特化のインタビュー形式の動画広告クリエイティブで攻略
―成果を出すまでに具体的にはどんなことをしたのでしょうか? 動画制作にあたって配信先をYouTubeに絞りました。 YouTube広告は、デフォルトでYouTube動画のネットワークとYouTube以外のWEBサイトに掲載できる設定があるのですが、あえてYouTubeだけに配信することで、ターゲティングを調整することにしました。 2つ目は配信面の工夫です。スマートフォンに最適化するよう、クリエイティブ面では正方形や縦型の画角フォーマットを取り入れました。 最初に作ったのは、インタビュー形式の動画です。ユーザー役の役者さんにユーザーの悩みを代弁するようなクリエイティブが成果に繋がっています。 また、運用に際しては、制作ツールを使ってスピード感のある動画の検証を行い、調整もかなり行いました。 自動最適化機能もCPAが合っていく上で効果があったと思います。TrueViewアクションを使ってクリックベースのCPAで合わせに行く
ーそもそも、YouTube広告で、直接コンバージョンを狙えるものなのでしょうか? クライアント様がおっしゃる「直接コンバージョン」は目指すことは可能ですが、難易度が高いのも事実です。 コンバージョンは大きく、「クリックコンバージョン」「ビュースルーコンバージョン」「エンゲージメントコンバージョン」の3種類があります。 直接コンバージョンというと、クリックコンバージョンを指すクライアント様も多いのですが、YouTube広告はユーザーに印象を残すもので、ビュースルーコンバージョンに強いと言えます。 そのため、LINEやFacebookのような静止画面に掲載する動画広告と違って、クリックコンバージョンは即座に狙うのは難しいです。 しかし動画の作り方や配信の仕方次第では、クリックコンバージョンを狙っていくことはできると、私は考えています。【鉄則】訴求を絞り、クリックさせることにこだわった「渾身の1本」を目指す
―直接コンバージョンを出す上でのポイントは何でしょうか? 私自身は、いつも以下の3つの鉄則を意識しています。- とにかくクリックさせることにこだわる
- 訴求を一つに絞る
- 渾身の1本のために3~5本を試していく
鉄則1.とにかくクリックさせることにこだわる
1つ目は、クリックしてもらわないと始まらないので、クリック率を上げるためのクリエイティブを模索する必要があります。 動画広告はユーザーの心に響くクリエイティブを作ることに終始しがちですが、そこで満足するのではなくしっかりとクリックを促すことが大切です。 動画を見た直後はユーザーのアクションへの意欲が最も高まるタイミングなので、ここでクリックしてもらうことが成果を上げるためには必須だと考えます。 CTRの目安としては、弊社だと平均0.3~0.5%ぐらいです。CTRはクリエイティブによって大きく変わり、ものによってはCTRが1%を超えるものもありました。鉄則2.訴求を一つに絞る
2つ目は、訴求ポイントを1つに絞ることです。 例えば、「早い」「安い」「旨い」の3つの強みがある場合、この3つを並列で訴えるのではなく、どれか1つに絞って訴求していくほうが良いでしょう。 3つ訴求があるなら1つをとにかくプッシュして、残りの2つは添えるだけのにするほうが、クリック率やコンバージョンにつながりやすい傾向にあります。鉄則3.渾身の1本のために3~5本を試していく
1本にすべてをかけて作るのではなく、「どれか当たったらいいな」ぐらいの気持ちで複数本制作するほうが良いでしょう。 1キャンペーンで少なくとも3本、できれば4~5本を試してください。仮説検証・調整を繰り返すことで、“勝てる”作品が見つかります。 勝ちパターンを見つけるために複数のクリエイティブを作成して試してみることが大切です。 ―長編・短編とは具体的にどのような広告動画を指すのでしょうか 長編は4~5分の動画を指し、短編は30秒以内のテレビCMと同じくらいの長さの動画を指します。 長編はデモグラに配信して態度変容を起こし、CVにつなげていくのが目的です。ユーザーの悩みに寄り添い、ストーリー立てて共感を得て、態度変容を促します。悩みがわかりやすい商材、例えば「単品通販」や「借金減額」などで利用されることが多いです。 長編については、制作期間と金額もかかるので、ターゲット層が少ないときにはあまりおすすめしていません。 一方短編は、態度変容が起こりづらい商材などと相性が良いです。例えば「中古車買取」の場合、車を持っていない方の態度変容を促すことは難しいですが、車を持っている方であれば高い確率で興味を持っていただけます。つまり、「中古車買取を検討している人・そうでない人を見つけてくる」などの目的に役立ちます。毎秒離脱率を見ながら、ナレーションとクリエイティブをチューニング
―直接コンバージョンを出す上での最も大きな課題は何でしょうか? 「渾身の一本」を仕上げるために、粘り強く効果を検証し、地道に動画を調整することでしょうか。 またリマーケティング用やカスタムインテント用など、ターゲットリストに合わせて動画を作る必要もあります。 ・渾身の1本を仕上げるために検証しながら動画を調整していくこと ・リマケやカスタムインテントなど、ターゲットリストに合わせた動画を作る必要もある ーどのように乗り越えたのでしょうか? 5秒、6秒、10秒と毎秒ごとの離脱率を見ながら、商品紹介のタイミングを変えたり、ナレーションを入れたりと細かなチューニングしています。地道な作業を繰り返すことが、最適化のためのデータの蓄積には欠かせません。 細かく微調整する必要があるので、ナレーションなどの作業は社内で対応しています。また動画制作ツールを用いて社内で対応できる幅を広げたり、回しやすい仕組みを整えることも行っています。「最適化」に必要な予算が確保できない場合には手を出すべきではない
ー改めて、まだYouTube広告をやっていない、一度やったけどやめてしまった企業向けに注意すべき点を教えてください まずはしっかりと予算を確保すること、そして「渾身の1本」を作る覚悟を決めることが大切です。最適化がかかるまではとにかく辛抱強く施策を続けてください。 ー本格的に攻略する場合、費用はどれくらい必要ですか? 自動最適化を最短でかけるためには、機械学習に必要なコンバージョンを確保する必要があるので、月額で100万円以上の広告費が必要です。 手運用では利用できないデータも利用できるので、成果が大きく変わります。正直なところ手運用だけだと勝ち目がないので、本気でやるなら最低でも月額100万は用意しておくことをおすすめします。 動画を作る上での制作費も忘れずに用意しましょう。1本あたり2~30万必要です。 動画広告に割ける予算が50万円以下の場合であれば、コンバージョンページに近い導線に中間コンバージョン地点を設置して、そこで最適化をかけるという方法もあります。 しかし、最適化の精度が落ちてしまうので、50万以下しか予算が割けないという場合は、別の施策に予算を寄せるほうが無難だと思います。構成がしっかりした「ストーリー性のある動画」が求められるプラットフォーム
ー運用する上で、YouTube広告ならではの特徴、Yahoo!やFacebookなど他のプラットフォームと比べた場合、どんな特徴がありますか? YouTubeは「動画を見たい」と思っている方が訪れるプラットフォームです。動画を見ようという姿勢のユーザーなので、動画に対する需要が高いと考えられます。構成やストーリー性がしっかりしていて、感動が伝えられる動画広告なら売り上げにつながっていく媒体だと思います。 そういう意味では、YouTubeで当たった動画をYahoo!やLINEに展開しても、あまり効果は見られません。あちらはニュースや記事を読もうと思ってきているユーザーのためのプラットフォームですから、動画広告もあくまで静止画の延長にあって、視聴態度がまるで違います。 一方、FaceboolやInstagramでは「動画を見たい」という視聴タイプの人も増え始めているため、YouTubeで当たった動画がそのまま使えるケースもあります。 ーこれらの特徴に対応するために、具体的にどんなことをしていますか? 社内で「動画攻略プロジェクト」を立ち上げて、部署横断で動画攻略に臨んでいます。 特に弊社のクリエイティブ部門は今までテキストと写真でユーザーの態度変容を促すストーリーを作り、コンバージョンを出すことに注力してきたチームであるため、動画の構成力も高いです。チームの知見を活用することで、「印象に残る」だけではない、「売れる」動画を作ることが可能です。 また、Google側との情報連携も行っています。 月に数回の頻度で情報交換を行い、YouTubeならではの攻略方法や事例のアップデートを行なったり、最新テクニカル情報のアドバイスなどもいただいています。 媒体ならではの最適化のためのスコアや、推奨値は、そのままクライアント様のご要望に反映させています。 ー現在、特に注力して攻略しているポイントはどのあたりでしょうか? 新型コロナの影響で、これまでYouTubeに触れてこなかった新しいユーザー層が大幅に増えています。ユーザー数は緊急事態宣言後も減ることがなく、この1年でYouTubeはしっかりと生活習慣に根付いたと言えるでしょう。 この1年で増えた新たなユーザー層を取り込むことが、現在の私たちのミッションです。 今後はcookie問題からリタゲなどができなくなる可能性があり、印象に残る動画の重要性が増していくので、より欠かせない手法となっていきます。心に刻まれる動画、記憶に残る動画を作るため、今後も懸命に施策を続けていきたいと思っています。まとめ
ソウルドアウト株式会社のクリエイティブ本部でYouTube広告の制作を担当する亘理直輝氏に、YouTube広告の成功事例や攻略ポイントについて話をきました。 YouTube広告を始める際は、まず、ターゲティングと訴求ポイントを絞ることが大切です。 コンバージョンには、クリックコンバージョン、ビュースルーコンバージョン、エンゲージメントコンバージョンの3種類があります。CPAを合わせていくためには、何よりもクリックされる工夫が必要です。 そのためには、少なくとも3本以上を継続して作成し、仮説検証を行いながら、じっくりと腰を据えて渾身の1本を練り上げていく覚悟を持つ必要があります。 媒体の最適化も必須なので、そのためにかかる予算をしっかりと確保しましょう。大体月額100万以上、動画制作1本あたり20~30万が目安です。 その上で、ビュースルーも意識し、YouTubeというプラットフォームならではの心に爪痕を残す動画を作り込んでいけると良いでしょう。話を聞いた人
亘理 直輝(わたり なおき)
2019年からクリエイティブプランニング部に所属し、動画ディレクションに携わる。営業・運用部門時代の知見に合わせ、動画制作の技術を活かしYouTube広告の全社導入推進を担当。自身が主宰するミュージカル劇団でもデジタルマーケィングの知識を生かして、日々の業務とのシナジーを図っている