企業経営にAIを利用する動きは既に欧米や中国で盛んとなっています。
2017年ごろからは日本でも超少子高齢化による労働人口減少の流れを汲み、企業におけるAI利用、特にチャットボットの導入は顧客の利便性と満足度の上昇、業務の効率化や人件費削減などが見込めるとして話題となりました。
しかしながら、実際に導入した企業は2018年時点で20パーセント程度という調査結果も出ています。逆に言えば、今、的確にAIやチャットボットの開発に向けて検討し準備を重ねておけば、日本において先進企業となれる可能性がある…と言えるでしょう。
しかし、チャットボット開発・導入を経営者から指示されたものの、どうすればいいのか途方にくれている担当者も多いのではないでしょうか。
ここでは「チャットボット」の開発運用を目指す企業人に対して、チャットボット開発にあたり、事前に準備しておくべきことを述べていきます。また具体的なチャットボット開発ツールもご紹介します。
チャットボットとは
チャットボットとは、「会話形式の問い合わせに対して、自動応答する仕組み」です。
AI(人工知能)を利用し、相手(利用者)が発した(記述した)自然言語を読み取って判別し、その問いかけに対して最もふさわしい返答をするbot(ロボット)です。
ただし、後の章でも説明しますが、特に商用利用のチャットボットの場合、チャットボット自身が「言葉を新しく生成し、言語を操る」(生成ベースタイプ*)ものは現時点ではほとんどありません。
あらかじめ用意された数多の言葉から、これまで蓄積された会話パターンのデータを元に、最もふさわしいものを「選び出して」回答します(検索ベースタイプ)。そのため、チャットボットが使う「会話」は、人間が用意しなければなりません。
*チャットボットには言語生成ベースタイプもありますが、まだ商用に実用するには難解なため、ここでは検索ベースタイプについて述べていきます。
以上のことをふまえ、企業においてチャットボットを導入する際に念頭におくべきことをお伝えしていきます。
先行して成果をあげるために為すべきこと3つ
チャットボット開発を開始する前に、
- 「なぜチャットボットを導入したいのか」を明確にする
- 会話フローのための顧客ニーズの情報収集を行う
- 開発と運用のための技術スキルを持つ人材を雇用する
これらを準備する必要があります。
「なぜチャットボットを開発したいのか」を明確にする
チャットボットを開発するはっきりした「目的」を持ちましょう。そうすることで、必要な「データ収集と解析」も的を絞って行えます。
例えば、以下のような具体案があります。
- 「顧客への案内サービスの充実」
ある程度決まっている質問、単純な質問に対してはチャットボットが対応し、それ以上の複雑な質問や要望に対しては、これまでどおり案内係の者が対応します。
- 「人件費削減」
単純な初期応対をチャットボットに任せることで、人件費の削減が見込めます。
- 「サービスの拡大」
人間には休みが必要ですがチャットボットには必要ありません。24時間いつでも、顧客は「知りたい」「困った」と思ったときに質問することができます。複雑な質問の対応にじっくり時間を取れるので、顧客満足度も上がり、「顧客が何を求めているのか」潜在ニーズまで拾い上げることができるでしょう。
このように「チャットボットに何をさせたいか」を明確にすることは開発において重要です。
会話フローのための顧客ニーズの情報収集を行う
チャットボットの開発のためには、顧客が最も「納得する回答」「スッキリする回答」を準備しなければなりません。そのために、顧客ニーズの情報収集は必須です。
「どんな質問を顧客は発してくるのか」
「どういう回答をすれば顧客はスムーズに知りたい情報を得られるのか」
これらを知るために、これまでに蓄積した顧客情報やアンケート結果が役立つからです。
情報を元に、「質問項目」を分類し、どの質問をチャットボットに任せるのか、人間のオペレーターへは何を任せるのか、振り分けていきます。
「どういう言葉、単語、形式で質問してくるか」も重要です。実際にチャットボットを実装した場合、質問者は細切れの単語で尋ねてくることもあれば、文章入力する場合もあるでしょう。使う言葉も複数種類あると予想されます。
こうして作られた最初の会話フローを内部でテストします。うまくいかなかったところは調整し、さらにテスト…と繰り返します。
チャットボットの成功事例として知られているLOHACOの「マナミさん」は、省人化効果が6.5人分と言われています。
「何を売っているの」と問いかけると、「おすすめ商品」を教えてくれます。逆に「商品」と1単語で問いかけると「商品についてどのようなご質問ですか」と的を絞らせる質問を返してきます。
「商品」と意味が似ている「売り物」と入力すると、「商品」と問いかけた時と全く同じ回答にはなりません。
これまでにマナミさんに問いかけてきた数々の質問ごとに、利用者のその時のニーズを蓄積しているため、質問が似ていても、それぞれに最もマッチした返答ができると考えられます。
最初に顧客のために必要な会話がある程度準備されていれば、テスト回数を最小限にして、実際の運用に繋げられます。
とはいえ、利用していくうちに、これまで見えていなかった問題やニーズが浮かび上がってくるのが普通です。ですから実際に運用開始した後も、顧客満足度の高い会話をチャットボットに「成長」させるためには、さらなる情報収集とブラッシュアップが常時必要です。
開発運用のための技術スキルを持つ人材を準備する
チャットボット開発のために、技術スキルを持つ人材を準備しましょう。
チャットボットを開発するには大きく分けて
上記二通りがありますが、どちらを選ぶとしても、「開発のための技術スキルを持つ人材、またはある程度理解している人材の雇用」は必要です。
技術的なことがわかる人材が全くいない状態では、情報共有や「チャットボットでやりたいこと」に対する意思疎通に問題が起きる恐れがあります。
「顧客本位」「利用者目線」のための3つの心がけ
「UIに自社ならではのオリジナリティを出したい」
「オリジナルのキャラクターに会話させたら話題になるだろう」
…など、チャットボットを理解するに従って欲も出ると思います。
しかし、チャットボットの開発運用は「顧客サービスのレベルを上げる」ことが目的、大前提です。技術者や開発者の自己満足にならないよう、常に心がけることが大切です。
1.ユーザーインターフェースは奇をてらわない
「使いやすい」チャットボットにするためには、基本的なUIを変えてはいけません。
チャットボットは2017年ごろから話題になり、取り入れる企業も増えてきており「使いやすい」UIはある程度決まっていると言えます。
他と全く違うUIだと、「使いづらい」と感じて離れてしまうでしょう。たとえば、オフィスで使われる主なアプリケーションのUIを考えてみてください。MicrosoftのWord、ExcelとGoogleのドキュメント、スプレッドシート、さらには画像編集専門のadobeのPhotoshopやillustratorでさえも、基本のUIはほぼ変わりません。これにより、ユーザーはアプリケーションが変わってもある程度安心して使うことができます。
あくまでも「利用者の目線で」使いやすいかどうかを第一に、UIを決めましょう。
2.キャラクター設定は「顧客の利便性を上げる」ことにはならない
キャラクターを設定する場合は、十分に議論が必要です。自社の顧客層に合わないキャラクターになってしまうと、顧客は違和感を感じてしまう可能性があります。
例えば、若者が多いアパレル企業のファッションサイトなら、スタイリッシュな人物アバターはぴったりでしょう。しかし、自治体や金融企業などの「堅い」サイトでそういうキャラクターは違和感を感じる人が多いと思われます。
また、キャラクターは企業に親しみをもってもらえるメリットがありますが、一方でキャラクターを作り込むことは、企業・顧客双方に必ず役立つとは言い切れません。キャラクターと楽しい会話ができることがリピートに繋がる効果はあるでしょう。
しかし、それを作り込むためには、顧客が求める情報以外のシナリオ作成が必要になります。仕事を効率化するためにチャットボットを導入したのに、チャットボットの日常会話の工数を増やしていては本末転倒ではないでしょうか。
以上をふまえ、キャラクター設定を優先させるよりも、サービス内容、応答内容を精査し整えることに注力しましょう。
3.利用者の声を元に「成長」「改善」を繰り返す
何よりも大切なのは、「利用者目線」です。そのためには、利用者の声を元にチャットボットは常に「成長」「改善」しなければなりません。
チャットボットの「開発」そのものが目的ではなく、「顧客の利便性と満足度を上げる」「顧客満足度を上げることで、経営効率を上げる」のが目的だからです。
前回利用した時には、期待したサービスが得られなかった人が、次に同じチャットボットを利用した時も同じ結果だったとしたら?二度とそのチャットボットを使うことはないでしょう。
しかし、二度目に不満点が改善されており、より良いサービスが受けられれば、満足度は上がり、リピートに繋がるでしょう。
顧客、利用者が必要としている情報をすぐに与えることができるか。ストレスなく使うことができて、「便利だな」「また使おう」と思ってもらえるかどうか。常に考え、問題点は迅速に改善しましょう。
チャットボット開発の流れ
ここでは、実際のチャットボット開発のざっくりした流れを見ていきましょう。
以下のとおりになります。
① チャットボットを運営する「場所」(運営が可能なサービス=プラットフォーム)を決める
② チャットボット開発のためのツール(サービス)を選ぶ
③ ユーザーが必要とする情報(ヘルプデスクやサービスセンター、営業マンの顧客対応データ)をもとに会話の流れ(フロー)を設定する
④ ③を元に、実際の会話・応答になるようにプログラムする(コーディング)
⑤ 内部で試験して確認する
⑥ ユーザーを絞ってテスト運用をする
⑦ ③~⑥を繰り返す(3回程度は必須)
⑧ 本番運用開始
⑨ 実際の使われ方を元に、運用データを蓄積してさらにブラッシュアップをする
運用フェーズに入ったら顧客アンケートなどを元に、さらに改善を繰り返していきます。
なお、AI型のチャットボットの場合は、これらの会話パターン学習を、ある程度自分で行ってくれます。
それでは、上記②「チャットボット開発のためのツール(サービス)」をいくつか紹介します。
条件別おすすめのチャットボット開発アプリケーション4種類
ここでは、既に実績をあげている「チャットボットが作れるアプリケーション」を紹介します。どういうプラットフォームで使うのか、自動学習型にしたいかなど、開発方針に近いものを選びましょう。
サービス名(会社名) |
使用可能プラットフォーム数 |
プログラム知識の必要度 |
特徴 |
価格 |
LINE(LINE) |
単一 |
要 |
・LINEのAPIを使って開発できる。
・条件分岐型のため会話フローは開発者が指定する。 |
無料 |
Amazon Lex(Amazon) |
複数 |
要 |
・チャットボット開発に特化されたツール。技術者向け。
・「AI型」でもある。 |
有料・要問い合わせ(無料の試用期間あり) |
IBM Watson(IBM) |
複数 |
要 |
高度なAI(=人工知能)を搭載。分析も可能。 |
無料 |
Dialogflow(Google) |
複数 |
不要 |
チャットボットを初めて作る人におすすめ。GUI操作でプログラムを書けなくても視覚的に開発可能。 |
無料 |
特定のプラットフォーム上で使うことが決まっている場合
LINE
・プログラム知識:要
・特徴:
たとえばLINE上「だけ」でチャットボットを運用することが決まっている場合は、LINEのAPIを使って開発する方法がシンプルです。
こちらは条件分岐型なので、先に「どの質問に対してどう答えるか」を設定しておくと、そのとおりに会話します。その会話、回答が適さない場合に自ら学習して変更することはありません。
よって、運用している担当チームが利用状況を分析し、改善を行う必要があります。
・価格:無料
複数のプラットフォーム上で使う場合
チャットボット開発フレームワークを利用する場合
Amazon Lex
・プログラム知識:要
・特徴:
チャットボット開発に特化されています。このツールを使ってプログラムを書いていく(コーディング)「開発環境」となります。よって、プログラムを理解している技術者向けです。
こちらは以下の「AI型」でもあり、学習機能も持っています。
・価格:有料。無料の試用期間あり
AI型(自動学習機能を持つ)を使う場合
IBM Watson
・プログラム知識:要
・特徴:
高度なAIを搭載。「問い合わせに対してどう応えるか」を考えるベース(AI=人工知能)をもつツール。
どういう問い合わせが多いか、ユーザーは何に不満を持っているかなどを分析することができます。
最初に用意したシナリオやセリフから、ユーザーとの会話を重ねて学習し、より正確な会話パターン、応答を学んでいきます。(自分で新しい言葉をつくることはできません。元々あるものから、最もふさわしいものを探し出します)
・価格:無料
プログラムが書けなくても開発可能なものを使う場合
Dialogflow
・プログラム知識:不要
・特徴:
上記3つは、プログラムの知識や経験がある程度必要です。
チャットボットを初めて作る人、プログラムが書けない人は、こちらのような「チャットボット開発ツール」を使うことをおすすめします。GUI操作(グラフィカルユーザーインターフェース)で視覚的に作ることができます。
・価格:無料
チャットボット活用事例3つ
チャットボットが実際にどのようなサービスに活用されているか、いくつかご紹介します。
1.自治体での案内サービス等への利用
平成28年から実験に取り組み、平成30年3月で3度目の運用実験が行われています。
まだ本格的に稼働はしていませんが、利用者へのサービス内容の充実やスムーズな会話を実現させるために十分な期間を取りデータ収集を行っていることがわかります。
参考:
川崎市「平成29年度「AI(人工知能)を活用した問合せ支援サービス実証実験」【実施結果報告書】
2.事例ごとの法律的アドバイス
「法律家を身近に」というコンセプトで開発されたチャットボット事例です。
テスト運用で、「意外なことに」被害者からの需要が多いことがわかったとのこと。このように、顕在ニーズだけではなく潜在ニーズを掘り起こすのに、会話形式で進められるチャットボットの運用自体が役立つことが今後も見込まれます。
参考:
「手軽に使えるリーガルテック「交通事故過失割合Chatbot」を公開しました」
3.人材採用・求人への利用
人材採用にチャットボットを採用している企業はすでに少なからずあります。
特に医療系の職種は激務であることが多く、チャットボットでの案内は時間短縮にもつながり、スマホでの利用も可能な場合はよりユーザーに歓迎されるサービスと言えます。
参考:
「医療系マッチングサイトにおけるチャットボット活用の解説ー運用企業と開発側の視点から」
チャットボット開発失敗の主な原因3つ
チャットボットをせっかく開発してもうまくいかなかった企業もあります。その考えられる理由を挙げていきます。
原因1.「使える」よりも「できること」を優先させてしまった
使えないチャットボットは開発する意味がありません。
上記でも述べたとおり、「チャットボット導入の目的」をはっきりさせておかないと、結局「使えない」ので、ユーザーは離れてしまいます。
実は、チャットボット開発を「なんかすごそう」「流行りだから」などの曖昧な理由・目的で行ってしまい、利用が進まずサービス終了した例は実際にいくつも起きています。
「実際に使ってもらえるかどうか」を最優先にしましょう。
「会話の滑らかさ」を優先させてしまった
「本物の人間のように会話できる」ことを目指すのではなく、あくまでも「利用者が欲しい情報をすぐに与えることができる」のが、チャットボット開発の目的であることを心がけましょう。
チャットボットが特にAI学習方式を取っている場合、会話を学んで徐々に成長していきますが、ユーザーの入力した言葉を理解できない場合は別のサービス(選択肢、オペレーター、F&Aページなど)に誘導することになります。
使うたびに「ご希望のサービスが見つかりません」「お問い合わせください」では、利用者はそのチャットボットを「ほしい情報がすぐ出てこない」「使えない」と感じ、どんなに会話が滑らかであっても訪れることはなくなるでしょう。
商用のチャットボットは「会話の滑らかさ」よりも「サービス内容の充実」の方が重視されるべきであり、ここを取り違えてしまうと、開発しても利用者がいなくなる=失敗となってしまいます。
アフターフォローができなかった
チャットボットはあくまでも「利用者の利便性」のためにあるのであり、チャットボットが対応できない商品の詳しい説明やアフターサービスなどは、社員がしっかりと対応しなければなりません。
それが経営、顧客対応の基本なのは、チャットボット導入と関わりなく、変わらないものです。たとえば、やり手の営業マンが巧みな営業で契約(購入)直前の顧客を連れてきたとします。
しかし、そのあと社内で説明する担当者の態度が悪かったり、説明に一貫性がなかったりしたらどうでしょう。顧客は契約(購入)せずに帰ってしまうでしょう。
同じように、せっかくチャットボットで利用者が満足し、実際に商品を購入、または大きな契約をしようとしたとしても、その後を引き受ける「人」のサービスや対応がまずければ顧客は離れてしまいます。
チャットボットを開発して終わりではなく、その後の対応も含めて、社員全員が経営ビジョンとして持っておくべき内容です。
まとめ
チャットボットの開発のために必要な準備と、実際に開発する際の流れ、主なツール(サービス)を紹介しました。
まったくチャットボットについて知識がなかった方も、開発のために「何をすればよいか」、ひと通りご理解いただけたと思います。
チャットボットという新しい便利なサービスは、ともすればその機能や目新しさにばかり目が行きがちです。しかし、顧客目線に立ち「顧客(利用者)に便利なサービスを提供する」という意味では、チャットボット開発は本来の企業経営となんら目的は変わりません。
その部分をしっかりとおさえていれば、ぶれることなく開発が可能となるでしょう。
参考サイト
「チャットボットにAI(機械学習・ディープラーニング)とNLPを応用する方法」
「日本企業におけるAI活用の可能性」
「これだけ読めばチャットボットのすべてが分かる」
「チャットボットが無料で使えるサービス比較!Webコンサルで活用」
「顧客接点の高度化を実現するAIチャットボット」
「チャットボット開発ツール比べをしてみた!」
「【無料】30分で作れるLINEチャットボット」