コロナ以降、世の中は大きく「レス時代」に動いています。出社レスや通勤レスになり、その結果としてオフィスレスや出張レスの動きも加速し、テレワークが普及し、対面レスの状況が数多く生まれています。
実際にチームメンバーと面と向かって話す機会が減った事で「コミュニケーションレス」にもなりやすく、様々なメディアで「テレワークコミュニケーションのしづらさ」が課題に挙げられています。
そこで、今回は「テレワーク環境で成果を出すチームコミュニケーションとは」をテーマに、世間に先駆けて自らが経営する会社に全面的にリモートワークを導入し、総務省のテレワーク先駆者百選にも選ばれ、今年の11月にマイナビ出版から『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』を出版した池田朋弘さんにお話を伺いました。
テレワーク化の4つの壁とは
<プロフィール>
池田朋弘(いけだ・ともひろ):起業家・株式会社メンバーズ執行役員
早稲田大学在学中にもっとネクスト株式会社の創業にCTOとして参画。
2008年、UXコンサルティング事業を行う株式会社ビービットにUXコンサルタントとして入社。
2013年、UXリサーチ事業を行う株式会社ポップインサイトを創業、同代表取締役に就任。2016年から全面的にリモートワークを導入し、2018年には総務省のテレワーク先駆者百選に選定。2017年4月にM&Aにより株式会社メンバーズのグループ会社となり、2020年3月に代表取締役を退任。
2015年、クラウドソーシング事業を行う株式会社MIKATA(現、株式会社イングクラウド)を創業、同代表取締役に就任。2016年10月にM&Aにより株式会社インググループのグループ会社となり、代表取締役を退任。
2016年4月、DX支援事業を行う株式会社メンバーズ執行役員に就任。複数の新規事業の立ち上げやエンジェル投資なども行う。
LISKUL編集部:本日はよろしくお願いします。まずは、今回出版された書籍では、様々なテーマが考えられる中で、なぜ「テレワーク×チームコミュニケーション」というテーマに絞ることにしたのかお聞かせくださいますか?
池田:テレワークが広がっていく中で「チームコミュニケーション」が最大の壁になると思っているからです。
私は、元々テレワークが広がっていくのは必然だと考えていました。結果的に2020年にコロナウィルスの影響で急激に広がりましたが、そもそもコロナがなくても、オリンピック開催などをきっかけにはテレワークは広がると思っていました。
しかしテレワークを広げて行く為には「4つの壁」があると考えています。それは、「業務の壁」「IT環境の壁」「心理の壁」「関係の壁」です。
LISKUL編集部:なるほど。1つ目の「業務の壁」とはどういうものですか?
池田:業務的な制約があってテレワークができないというケースです。職種的にどうしても現地で働かなくてはいけない人の事を、“エッセンシャルワーカー”と呼びますが、病院に勤務する医療関係者の人であったりとか、店舗に勤める人であったりとか、仕事タイプ的にテレワーク化出来ないエッセンシャルワーカーが一定数いる訳です。
この場合は、業務内容が障壁となってテレワーク化は非常に難しいというケースと言えます。アメリカではエッセンシャルワーカーが3~4割と推計されています。
その一方で、オフィスに出勤するといったエッセンシャルワーカー以外の人も大多数います。そういった大多数の人は、どんどんテレワーク化することで、通勤しなくても良くなって楽になるなどのメリットが数多ある訳です。
ただ、理論的にはテレワークが可能であっても、現在の業務スタイル・業務進行の都合でオフィス出社が必須な場合もあります。このような職種の場合は、テレワークに適した業務整理が最初の壁になります。
LISKUL編集部:なるほど。どうしても超え難い「業務の壁」がある場合以外は、テレワークを積極的に導入した方がメリットが大きいですものね。それでは、2番目の「IT環境の壁」とはどういったものでしょうか?
池田:テレワークの基本となる“IT環境”が整わないケースですね。出勤しなくても本当はできる業務なのに、物理的にパソコンがないとか、通信環境がないとか、セキュリティ的な面が心配でできないといったケースです。こういった「IT環境の壁」も多くの会社が実際に抱えている問題ではないかと思っています。
しかし、これに関しては、最近であればWeb会議サービスのZoomであったりとか、ビジネスチャットツールのSlack(スラック)とか、Google系やMicrosoft系などといった多くの多彩なソリューションが次々と出されていて、遠からず皆がより使いやすくて快適な環境が安価で導入できる時代が来る事は間違いないと思っています。
LISKUL編集部:ひと昔当たり前だった事が、今は全然別のものに取って代わっている事が多いですよね。
池田:まさにその通りです。例えば、少し前まではFAXが当たり前の様に使われていましたが、今はほとんど使われていませんよね。EメールやSNSで遥かに便利に代替できている訳です。これと同じ様に、今後ますます便利なツールやサービスが出てきて、皆がそれを使うのが当たり前な状況になる日は近いと思うのです。
LISKUL編集部:なるほど。Zoomなどもお祖父さんがお孫さんとリモート会話をするのに当たり前に使う様になっていますね。それでは3番目の「心理の壁」とはどういったものでしょうか?
池田:それはテレワークにする事への心理的抵抗の様なものです。やはりまだまだ多くの方にテレワークに対する心理的抵抗があると思うのです。
「テレワークだと上手く仕事が回らないんじゃないか」とか、「メンバーの業務が見えないんじゃないか」とか、「サボる人が出てくるんじゃないかといった心理的不安とか、そもそも新しい事をしたくないとか、出勤するのが当たり前といった価値観が変えられない、といった壁があると思うのです。
先日、中谷彰宏さんと対談させてもらったのですが、彼が言ってたのが、テレワーク拡大に日本人特有のアイデンティティが障壁になってしまっている、という事でした。「どこに自分の机があるか」が会社におけるアイデンティティになってしまっていることが多くあり、テレワークの普及を阻害しているという事です。
役員や役職の高い人は、会社に自分専用の部屋があるとか、上座やオフィスの奥の場所に良い机が置かれて、それがステータスの象徴になっていますよね。
そういう観点からすると、テレワークで在宅勤務になってしまうと、せっかく立派な席、部屋、場所が用意されたのに、それを使うこともできないし、そういう形のアピールもできない。そういった事に対する精神的抵抗があるというのです。
LISKUL編集部:確かに、役職が上がるとそういった優越感が手に入るという喜びがあるかも知れませんね。
池田:実は私は、この壁を崩すのは結構難しいと思っていたのです。そういったステータスシンボルに憧れて長年頑張って来た人や、それを手に入れて喜びを得た人にそれを手放してもらうのは、なかなか難しいと。そしてそれを実現する為には、古い価値観層から新しい価値観層に入れ替わるのを長い時間かけて待たなければいけないと思っていたのです。
ところが、これがコロナウィルスの影響でガラっと崩れたんですよね。テレワークを推奨する社会的風潮があって、半ば強制的にオフィスに行けなくなったことによって、そんなことを言っていられない状況になった。この状況は、テレワークの普及の大いなる追い風だと思うのです。
政府のテレワーク普及の施作も大きな後支えになり、風評的にもテレワークをしてないとまずいといった感じになった事で、心理的な壁を外さざるを得なくなくなり、急激にステップアップする事ができたと思っています。
LISKUL編集部:なるほど。社会的に変わらざるを得ない状況になった事が、越えられない壁を崩したのですね。それでは4番目の「関係性の壁」とはどういうものでしょうか?
池田:人間関係やチームワークに関する課題ですね。ツールの進化や普及によって、テレワークはとても導入しやすいものになりました。しかし、その状況において、チームメートとの関係性をきちんと作っていったり、維持していくのが凄く難しくなっていると思います。
以前であれば“飲みニケーション”であったり、今であればランチを共にするとか、世間話をするとか、オフィスで顔を合わせるとか、みんなで一緒に同じ場に揃ってコミュニケーションをとることによって関係性を作っていたと思うんですけど、これをテレワークでやっていくのは、やはりなかなか難しいのです。
心理的壁を越えてテレワークに対する不安感がなくなったとしても、関係性を構築したり維持するのは別問題です。これをリモート環境でするには相当の工夫が必要です。これが最大の壁かなと思ってます。この最後にして最大の「関係性の壁」を砕ければ、テレワーク導入の道が大きく拡がると思うのです。
LISKUL編集部:本当にそうですね。テレワークでの人間関係の構築や維持という声をよく聞きますものね。それでは、この「関係性の壁」を崩すには何が必要なのでしょうか?
池田:私はこの「関係性の壁」を解消するのは「チームコミュニケーション」だと考えています。
私の著書『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』の中でチームコミュニケーションを向上させる為のスキルや仕組みを紹介したのは、こういった手法を活用する事で、多くの方がチームメンバーのリテラシーや考え方を変え、チームとしてのスキルを仕組みを確立することができて、それが関係性の壁を解消するチームコミュニケーションの向上へと繋げてもらえると考えたからです。
自分の経験から開発したチームコミュニケーションの手法を広く提供する事で、多くの方のテレワークの導入に役立ててもらう事ができるという事が、この度の出版の大きな理由の1つなのです。
テレワークでは意識してコミュニケーションを取ることが大切
LISKUL編集部:なるほど。確かにチームコミュニケーションはどんな組織でも本当に大切ですよね。池田さんは著書の中で、「テレワークでは、チームコニュニケーションがより重要である」という趣旨のことをお書きになっていますが、それは何故なのでしょうか?
池田:テレワークだと意識しないとチームコミュニケーションができないからです。
そもそもテレワークじゃなくてもチームコミュニケーションができてない会社も結構多いんと思います。オフィスに集まっていても、メンバー同士が全然仲良くなかったり、お互いの状況が全く分かってなかったり。机を横に並べているからといってチームコミュニケーションができているとは思わないんですね。
しかし、オフィスに出社していれば「コミュニケーションが問題ないように一見見える」ことが多いです。問題が覆い隠されてしまうと言うか。
LISKUL編集部:実際に良くある光景ですね…!
池田:私はリサーチ業界にいたのですが、リサーチに“エクストリームユーザー”という概念があります。すごく極端な特徴を持っている人を指す言葉なのですが、例えば障害者の方などです。障害者の方というのは、例えば目が見えないという状況があるとすると、目が見える人よりも、色々な課題が顕在化しやすいんですよね。
ある時に、エクストリームユーザーのワークショップに参加した際に面白い経験をしました。それは目が見えない方と一緒に、会議室からある店舗に移動するという体験ワークでした。実際にチームメンバーが横で見ながら盲目の方と一緒に移動して、目的地に辿り着くプロセスの中で課題を発見して行くというものです。
私のパートナーになった盲目の方はスマートフォンを上手に使っていました。 音声読み上げを駆使して相当早い速度で情報を入手して目的地の住所を把握しました。電車のルートもすぐに分かって、実際に会場だった会議室を出て駅に移動して行きます。電車にもスムーズに乗って目的地の最寄りの駅に辿り着きました。そこまでは全く問題無かったのです。
LISKUL編集部:意外と問題なく行けるものなんですね。
池田:それが、この先に意外な問題があったのです。調べた住所を周りの人に伝えて尋ねた所、尋ねられた人が住所だけでは場所が分からないんですよ。
例えば、「●●町1-3-5ってどこですか?」と聞いたとします。でも、「1-3-5」と言われても、大半の人は普段地番で認識していないので分からないのです。地図アプリとかをその場で開いて見てくれる人がいればクリアできるかも知れませんが、その時にはすぐに解決できなかったのです。
この時、何ができてなかったかというと、住所に加えて目印やランドマークと言える情報が無かったのです。例えば、「●●町1-3-5」に加えて、「スターバックスの前」とか、「交番の隣」とか情報があれば、それ聞いてをすぐに辿り着けるのです。
LISKUL編集部:なるほど〜!
池田:これは実は健常者でも同じなんですよね。私もすごい方向音痴なのですが、住所や地番を知っていても目的地に辿り着けないのです。マップアプリをドラゴンボールを探す時に使うドラゴンレーダーのような感じで見ながら辿々しく歩くんです。
私の場合も、ランドマークや目印が分かっていれば遥かに便利なんです。アプリを見ながらでなくても、目印を伝いながら目的地に辿り着けますから。
この様に、本来エクストリームユーザーでなくても皆にとって共通の課題であるものの、エクストリームユーザーだからこそ顕在化する課題というのはよくあるのです。
LISKUL編集部:エクストリームな環境では、課題が見えやすいという事ですね?
池田:まさにその通りです。同じ様な概念で、チームコミュニケーションもテレワークというエクストリームな環境になってしまったが故に課題が露見しやすいという面があるのです。
元々コミュニケーションが上手くできてない会社もたくさんあると思うんですけど、それが、出社は一応するし、横にいるから話もできるし、そんなにコミュニケーションという事に強い意識を持たなくても、何とか回ってしまっているのではないかなと思っているのですが、これがテレワークになった瞬間に、相当意識しないと難しいものになる訳です。
横で様子を見る事もできないし、気軽にぱっと話すこともできない。時間を取ろうと思っても面倒臭さを感じる。「やっぱりコミュニケーション取りづらいよね」っていう所から希薄化していき、どんどん孤独化とか孤立化して行き、コミュニケーションが滞ってしまった結果、業務の成果が下がる。こういう構造にあるんじゃないかなと思っているのです。
この様に、テレワークになると課題が目立って顕在化してしまいやすい傾向があります。それ故に、テレワークではより強く意識をしてチームコミュニケーションをとるいうことが重要だと思っているのです。
雑談の重要性の理由 4つのポイントとは
LISKUL編集部:ところで、今回の著書の中にテレワークでのチームコミュニケーションにおいては、雑談が凄く大切という趣旨のことが書かれていました。 逆に、テレワークでは雑談が難しいという印象があるのですが、なぜテレワークでは雑談がより重要になるのでしょうか?
池田:私は、雑談には4つの重要なポイントがあると思っています。
1つ目のポイントは、「雑談ができないと相談ができない」という点です。ソニックガーデンの倉貫さんが「雑談は、雑な相談」と指摘してます。(参考:ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」)倉貫さんは、略して雑相(ザッソウ)と読んでいるのですが、相談と雑談の境目って結構難しいと思うのです。
ちょっとした相談というのは雑談とも言えるし、雑談のような相談かもしれない。そこの境界線は曖昧な事が多いと。
その上で、雑談ができないということは、明らかにクリティカルな相談はできるにしても、その瞬間に明確に相談だと分からなければ行われないという事になってしまうので、相談自体がなされないということに繋がると思うのです。そういう意味で、雑談ができない≒相談しづらいかなと思っており、雑談の重要性は相当高いと思っています。
LISKUL編集部:なるほど。確かに雑談と相談って明確に分けにくいですね。雑談をしないということは相談もしないという事につながるんですね。うーん、それは大きな問題ですね。それでは2つ目のポイントは何ですか?
池田:2つ目のポイントは、「雑談をしないと組織の知的生産力が出にくくなる」という点です。
グループワークを進めていく上では、自分の取り組みでもチームの取り組みでも、アイディアとか新しい考え方を産み出すという事が大事だと思うんですけど、雑談をしないとそういうものを産み出しにくくなるんです。
雑談する中で、新しいアイデアが出たりとか新しい施策を思いついたりとか、コンセプトが出るという事ってよくありますよね?
私もそうなんですけど、誰かと軽い話をしながら考えるというケースが多いのです。 その場合、雑談ができないと考える機会が減るという事になりますよね。考える機会が減るということは、組織としての思考力、知的生産量が下がる訳です。ですから、雑談ができない≒組織の知的生産力が下がるという事が言えると思うのです。
LISKUL編集部:それは組織にとって大きな問題ですね…。続いて3つ目のポイントは何でしょうか?
池田:3つ目のポイントは「雑談ができないとメンタルヘルスの問題にもつながる」という点です。
この事に関して、産業医の夏目誠さんが著書の中に興味深い事を書いているのですが、職場でのメンタルヘルスの問題が急増している原因は、雑用と雑談が減ってる事にあるというのです。(参考:中高年に効く!メンタル防衛術)
雑用というのは例えば書類を整理するとか、精神的負荷が低い仕事な訳ですが、こういう簡単な仕事がどんどんアウトソースされて、社員がしなくてもよくなったと。こうなると社員は残された精神的負荷の高い仕事ばかりする事になる訳です。
さらに働き方改革等によって時間も限られてくるので雑談をする時間も減ると。この様な背景から仕事面から精神的付加が高まり、雑談しない事でさらに詰め詰めな感じになって精神的負荷が極限まで高まってしまう。
さらに、雑談の機会が無い事でそういった精神的負荷、つまりストレスを吐露することもなくなってきているので、ストレスは溜まる一方になる訳です。その結果、メンタルヘルスの問題が急増しているというのです。つまり、そういう視点からも、雑談が大事だと言えるのです。
LISKUL編集部:それは、如何にも危険な状態ですね…。最後の4つ目のポイントはいかがでしょうか?
池田:4つ目のポイントは、これらの結果として「雑談ができないとチームとしての生産性が下がる」という点です。
MIT工科大学のアレックス・アンディ・ペントランド教授の研究によると、雑談が多いチームの方が業績が良いというデータが出ているそうです。(参考:ハーバード・ビジネス・レビュー チームワーク論文ベスト10 チームワークの教科書)その要因としては、先程挙げた様に相談がしやすいから生産性が上がりやすい、アイディアが出るから知的な創造性が高まるという事が挙げられます。つまり、チームの生産性を上げる要素に雑談の数がかなり重要なファクターとして効いてると言う研究がある訳です。
LISKUL編集部:活発なコミュニケーションが取れているチームは成果が出やすいという事が研究結果としても立証されているんですね。
池田:この様に、雑談ができないという事は、「相談ができない」「アイディアが生まれない。」「チームの生産性が下がる」「メンタルヘルスも増える」と大きな問題につながる訳です。
逆に言えば、雑談ができる事でそれらの4つのポイントが上手くいくという事なのです。ここからも雑談というものが組織としても如何に重要かご理解いただけると思います。
テレワーク環境で雑談ができるようになる為の3つのポイント
LISKUL編集部:チームコミュニケーションにおいての雑談の大切さが良くわかりました。それではテレワーク環境で雑談ができるようになるにはどうしたら良いのでしょうか?
池田:テレワーク下で雑談が活発にできる様にする為には、“3つのポイント”があります。
1つ目のポイントは「雑談の機会を作る」という事です。本に詳しく書きましたが、例えばオンライン朝会を毎日するようにしたり、チームメンバーで相互1on1をする機会をつくったりとか、まず最初に意識的に機会を創出する事が大切です。
2つ目のポイントは、「雑談する時間を作る」という事です。
これは業務の生産性にもつながる事ですが、無駄な会議の時間を減らす工夫などをすることで、雑談をする時間がなくなってしまう要因を解くという事です。これが意外に重要なポイントの1つなのです。
3つ目のポイントは「雑談のネタを作る」という事です。そもそも雑談をする関係であれば、お互いを知らない筈がないと思うんですね。
お互いのことを知らないと雑談って難しいんですよね。相手が何の話題に興味があるのか分からない訳なので。つまり、雑談のネタを作る為の事前の仕掛けが重要だと思うのです。
テレワーク下で雑談が活発にできる様にする為には、「機会を作る」「(余分なものを削って)時間を作る」「話すネタを作る」この3点がポイントだと思います。これらを実現するための具体的な仕組みを書籍でたくさん紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
テレワークがメンタルヘルスに与える効果とは
LISKUL編集部:私もこの3つのポイントを活用してチームの雑談を活発化したいと思います。今世間では、テレワーク化が進むことで、メンタルヘルス問題が増える可能性があると言われていますが、実際はどうなんでしょうか?
池田:今年の8月に、国が1万人規模でテレワークによってメンタルヘルス問題が起きていないかどうかといった大規模調査をするという発表がありました。(参考:コロナうつで初の実態調査 厚労省、1万人規模│日本経済新聞)しかし、現時点ではまだ結果が出ておらず、この結果は気になるところです。
私個人としてはテレワークによってのメンタルヘルスへの効果は、ポジティブ面ネガティブ面双方があると考えています。そして、ポジティブ面の要素が強化されればメンタルヘルスの問題を減らす事ができると思っていますし、ネガティブな要素が強調されるとメンタルヘルスの問題が増えると思うのです。
LISKUL編集部:なんと!テレワークがメンタルヘルスに良い影響を与える可能性があるんですか?
池田:そうです。私が考えるテレワークのメンタルヘルスに働くポジティブ要素は2点あります。
1点目は「嫌な人と距離を取れる」ということです。
別途調査で出ているメンタルヘルスの要因として大部分を占めるものは「人間関係」なんですよね。正しく言うと「人間関係」と先程も出てきた「業務過多」。この2つがメンタルヘルスの2大問題なのです。
業務過多の方はテレワーク特有の内容ではないのでここでは省略して、人間関係にフォーカスをすると、苦手な人との良くないコミュんケーションが積み重なることによって、それがメンタルにきてしまうということだと思うのです。
その点テレワークは物理的に離れている事もあって圧倒的に距離感を離しやすいので、苦手な人と距離を置くという面においてとても効果的だと思うのです。
LISKUL編集部:なるほど。苦手な人と距離を置くと気持ちが楽になりますよね。
池田:そうなんです。私自身も体験がありますが、私は社長をしていたので、社内の上からの圧力というのはありませんでしたが、組織ができて社員が増えると、実際には部下の中にも相性があまり合わない人もできてきます。
私はキャラクター的にパワハラをするような人間ではありませんし、時世的にも絶対にしたくありません。それでも、相性が合わないメンバーと距離感を近づけてしまうと、私の方もストレスが溜まるし、向こうはもっとストレスが溜まって、さらに不都合が出てしまう可能性があります。
それがテレワークという環境だと、適度にコミュニケーションを減らすことができます。私とは少し距離を離して、別の人と仲良くしてもらう事もできる訳です。現実問題としてテレワークによって不要な摩擦を大きく減らす事ができた訳です。
こういった実体験も踏まえて、テレワークはメンタルヘルスの大きな要因にあたる部分を解消する要素になり得ると思っているんです。
LISKUL編集部:テレワークをする事でチームワークをより円滑にできるという事ですね!
池田:その通りです!2点目のテレワークがメンタルヘルスに与えるポジティブ要素は「ファクトを残しやすい」という点です。
これは同じく人間関係に関する事ですが、テレワークのコミュニケーションはほぼ全てのやりとりがデジタルで行われます。オンライン会議であったり、チャットなどでコンタクトが行われる訳です。すると、コミュニケーションの履歴の多くがデジタルデータとして残す事ができるのです。
私自身の体験で言うと、経営していたポップインサイトが全面リモートワーク化する前のリアルオフィスがあった時期に、私が知らない所で問題が起こった事がありました。
ある社員が別の社員の事を酷く怖がっているというのです。すぐに怒鳴ってくると。私は全く気づいていなかったので、「え、そうなの?」といった感じでした。 聞いてみると半年前からそうだったと。傍目には、むしろ仲良く見えていたのです。ファクトというか事例が見えなかったので、気づくのが遅れてしまったのです。
LISKUL編集部:当事者間の口頭でのやりとりは記録も残らないですものね。
池田:そうなんです。そんな時に、テレワークであればほぼ全てのコンタクトがデジタルを通して行われるので、何か問題があっても記録に残す事ができます。ファクトベースで確認ができるのです。
しかも、その様にファクトが残るので、そういったパワハラとかいじめとかセクハラがしづらいという抑止効果があるんです。これによって、良い健全性が生まれやすいという事に繋がります。これは大きなメリットと言えると思うのです。
こういったテレワークのポジティブ面をうまく活用できると、メンタルヘルス問題を大きく削減できる可能性があるのです。
LISKUL編集部:それは素晴らしいですね!
池田:私が考える、テレワークのメンタルヘルスへのネガティブ面の方にも触れておきたいと思います。
それは、やはりリアルに比べるとコミュニケーションが少々難しいという点です。
現実的にテレワークで一番多いコミュニケーションツールはチャットですが、やはり文章でのやりとりはとかく冷たくなりやすい傾向があります。温度感を持ったコミュニケーションというのは、ちゃんとそこを意識しないとできにくいのです。
相手の状況が分かりづらいという点もあります。困っていることを助けてあげるとか悩んでる事があったら相談に乗るといったことも、強く意識しないとなかなかできません。
この辺りのコミュニケーションがお互いがオフィスにいる時よりテレワークの方が明らかに難しいので、何の策も無く問題を放置していると、メンタルヘルスの問題が強くなってしまいます。
LISKUL編集部:それは大いにあり得る事ですね。
池田:実はこの点を解消する為に書いたのがこの『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』なのです。
テレワーク環境で本来難しいチームコミュニケーションを、良い手法を活用してポジティブ面を伸ばしてネガティブ面を打ち消すことによって、メンタルヘルス問題を飛躍的にプラス方向にすることが可能だと私は実体験から感じています。
書籍のポイントは「具体性」と「応用性」
LISKUL編集部:素晴らしいですね!そんなテレワークのメリットを伸ばしてデメリットを抑える手法が紹介されている、池田さんの『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』。著者としてのこの書籍のセールスポイントはどこだと思いますか?
池田:この本は、「具体的である」という点と、「応用が利きやすい」という点の2点を強く意識して書きました。
まず「具体的である」という点ですが、私は文筆家ではありませんし、学者でもありません。実際に自分が経営して現場で1人1人とコミュニケーションをとってきた中で課題に悩んだり、ひたすら試行錯誤してきた人間です。
数十人の社員や数1000人のリモートワーカーの方とコミュニケーションを取ってきた中で、これは良かった、この取り組みはプラスになっている、と思える実例を数多く紹介しています。これらをポイントも含めて整理しているので、一切抽象論が無く、非常に具体的な内容に仕上がっています。だから、読んだ方にイメージして頂きやすくなっています。
書かれている具体例を読んだマネージャーや経営者の方が、読んですぐイメージできて実践できる。チームメンバーが読んでイメージする事で、「こんなことやってみたらどうですか」とすぐにチームメイトに言える、という所が1つ目のセールスポイントだと思っています。
LISKUL編集部:確かに具体例が細かく沢山書かれているので、はっきりとイメージできてすぐに自分の仕事に活かせる印象を持つ事ができました。それでは、2つ目のセールスポイントは「応用が効きやすい」というのはどういった事でしょうか?
池田:これは、私の弱みでもあるのですが、私は学者の方の様に、統計的な調査をしたりとか数値的なエビデンスを持って書いている訳ではないんですよね。
勿論、私が実際に体験して有益だった事例ばかり紹介しているのですが、当然業種や環境が違う全ての読者の方に私が行った事がそのまま当てはまる訳ではありません。whatの要素はそれぞれ違って当たり前ですよね。
そこで、私が意識したのはwhyとhowを詳しく書くということでした。つまり、なぜこれが重要か、どの様に注意すべきかという所を力を入れて細やかに書いたんですよね。
LISKUL編集部:なるほど!その方が読者にとっては応用を効かせやすいんですね?
池田:まさにその通りです。私の目標の1つは、読んでくださった方が、いかに応用を効かせやすい本にできるかどうかという点でした。
whatは会社によって変わるかもしれないけれども、書かれているポイントがなぜ重要かというwhyの部分は誰にでも該当する普遍性が高い要素という訳です。
その為に、何故朝会をすべきなのか、何故チャットツールを使うべきなのか、何故画面キャプチャを使うべきなのか、といったwhyの要素を相当自分なりに注力して書いたのです。
それぞれの方が直面する状況に応用して実践で使って頂きやすいように、「これをしましょう」という表現ではなくて、「何故これをするのが良いと思っているのか」「何故ここががポイントになるのか」「何故こういうのが必要なのか」ということを書きました。
つまり、この本を読む時には、whatの部分は例として参考にしながら、whyを活かして頂く。さらにそのwhyに対してhowの部分のエッセンスを抽出して、具体策はご自身の環境に応じた形でどんどん変えて頂く、その様に活用すれば、どなたにも共通してすぐに活用して頂けるのではないかと思っています。
テレワークのメリットを活用して強い組織を実現しましょう!
LISKUL編集部:それでは最後にテレワークでチームを率いる経営者やマネージャー、テレワークで頑張っていきたいチームメンバーに向けて一言お願いします!
池田:私はテレワークに限らず、チーム、会社、組織で働くためには相互の信頼関係が最も重要だと考えています。
信頼関係があるか無いかが、テレワーク環境化が進むことによって、一段と顕在化しやすくなってきていると思います。しかし、今回申し上げてきた様に、テレワークを良い手法で活用する事で、チームワークを格段に良くする事ができます。
もし今、チームワークの課題が顕在化したりとか、上手く行ってないというのは改善のチャンスだと思います。これを絶好の機会と捉えて、改めて課題や問題を見直し、テレワークのメリットを活かして、しっかり根治的に解決して頂ければ幸いです。
テレワークを活用してもっともっと強い組織、良いチームを作る為のツールとして頂くことができれば、テレワークに限らない全体的な人間関係をよりよくしていけることでしょう。
『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』で紹介した内容が、皆様のより良い職場環境作りと、より楽しく幸せな業務推進の一助になればと、心から願っています!