「DX戦略を立てるにはどうすればよいのか?」「他の企業ではどのような戦略を立ててDXを取り入れているのか?」そんな疑問からこの記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
DX推進のためには、自社の風土・人材、市場の動きなどさまざまな要素をふまえ総合的に戦略を立てていく必要があります。
この記事では、企業ごとの目的のためにDX戦略を取り入れ、達成した5つの企業の成功事例と共に、DX戦略を成功させるために必要な4つのコツを解説します。実際にDX戦略を立てるための3つのステップも紹介します。
DXの推進に成功させた企業の戦略事例5選
DXにおける戦略としては、目的の達成を意識してIT化を進めていくことが重要です。 ここでは課題の改善のためにDXを行い、成功に結び付いた5つの企業の事例を紹介します。顧客ニーズを探しだし、個々に合わせたスキンケアを提案するシステムの開発に成功した資生堂
化粧品大手の資生堂では、女性の社会進出が進んでいる昨今では、「化粧品やスキンケア商品を選んでいる時間がない」や「ほかにやることがあって、スキンケアができていない」などの悩みをもったユーザーのニーズに対し、適切なスキンケアを提供したい、という課題がありました。 そこで、スマートフォンアプリを通じ顧客が肌データを送付することで、自動的にパーソナライズされた保湿液が抽出される「Optune(オプチューン)」のβ版をリリース。 2017年から着手したOptuneの開発は、β版から実際に利用したユーザーから使用感や必要・不要な機能の声を集めることから始めました。その結果、過去の「現在の肌を確認できる機能」のリクエストが多く集まったのです。 そこからローンチに向けて、顧客の声に合わせてシステム改良を進めることで、顧客の肌にあった保湿液が抽出されるOptuneのローンチを成功させました。 この事例で特に注目すべき点は、β版をリリースし、利用者の声を集めたことです。当初「スキンケアにあまり時間をかけたくない」ユーザー像を想定していましたが、実際には「もっと自分の肌の現状を詳しく知りたい」ユーザーが多いことに気づけた点が成功につながったのです。 参考:【資生堂・Optune】パーソナライズデータがつくる、スキンケアとの新しい関係AI配車で日本のタクシーDXを加速させた日本交通
東京最大手のタクシー・ハイヤー会社である日本交通では、アメリカでUber(アプリを通じた配車サービス)がリリースされ、よりタクシーを利用しやすいようDX化が進んでいたことに対し、強い危機感を感じていました。 そこで、2011年より「日本交通タクシー配車(現Japan Taxi)」をリリース。その後瞬く間にダウンロード数は増え、2020年には900万ダウンロードを達成しました。 ここまでスムーズに配車アプリの提供をスムーズに行えたのは、自社内でアプリの開発に着手し、全国のタクシー会社も利用しやすいクラウドを活用した環境を整えたことが理由と言えます。 そうすることでスピーディーな改善が行えることはもちろん、開発したサービスを他社でも利用できるように提供することで、業界全体のDX促進も図ることが可能になりました。 参考:「AI×タクシー」で日本交通が収益拡大に自信、労務改善も経営から販売の一元化までITの活用で顧客の体験価値を高めるユナイテッド・スーパーマーケット
ユナイテッド・スーパーマーケットでは、ネットショッピングの顧客にとって決済に並ぶ手間がない、在庫が分かる、といったメリットがあるサービスに対し、スーパーマーケットの仕組みや顧客の購買行動の変化についていけていない、という課題を抱えていました。 そこで、顧客の購買行動の変化に対応するべく、自宅までの配送や冷凍食品にも対応した受取ロッカーの設置、顧客が自ら専用スマートフォンでレジから決済まで行えるサービスの実施など、スーパーマーケットだからできる「DX戦略」を考えました。 その際、経営者だけで戦略を立てるのではなく、現場で働いている人たちを当事者として戦略を練ることや、1年半をかけて勉強会やDXに取り組んでいる企業の見学などを実施。 それにより、社内全体でDX化を目指すだけでなく、開発経験のない現場メンバーが支援を受けながらパン売り場の欠品感知システムの開発に成功するなど、地域や店舗ごと必要なものを自ら開発するケースも出るようになりました。その結果、顧客体験の多様化に成功しただけでなく、社内の意識改革にもつながったのです。 参考:DXによる小売業の構造改革は現場から起こせ ~日本のRetail 2.0最前線に立つイオングループ効率の良いシステム化で旅先の快適な活動を提供するANA
航空会社のANAでは、DXの推進に当たり、新しい技術や手法が実現可能か、目標の達成に寄与するかを判断するため、2019年だけで50件以上ものPoCに着手しました。結果として新たなサービス・業務の創造数は20件以上にのぼります。 それまでのANAでは、ユーザー部門のニーズを前提として仕事をするにあたり、IT部門にはニーズの情報が入らなかったり、ウォーターフォール型の業務プロセスにより思考決定まで時間がかかったり、DXを推進するための根本的な改革が課題となっていました。 そこでPoCの予算を別枠で確保、アイデアの実証実験を通じた早期判断と、自社内でのシステム開発により、サービス・業務の創造までの時間を短縮化することに成功しました。また、並行して風土改革のための社内イノベーション研修や異業種とのアイデアソン・ハッカソンなども実行しています。 結果、顧客全体の予約からチェックインまでのデータや、飛行機の便ごとの情報、貸し出しベビーカーや車いすの管理システム、時差ボケ調整アプリを通じた搭乗後の活動のサポートなど、多様なサービスが誕生しています。 参考:ANAのDXに向けた取り組みデータ一元化に対する現場からの理解を得るために、「一元管理の利益の共有」に注力した安川電機
産業用ロボットなどの製造を行う安川電機では、DX推進のために社員からの理解を得るための共有を行っていきました。 同社では部門・拠点・子会社ごとなど、データがバラバラに管理されており、本当の経営問題や利益が見えてこないという課題がありました。しかし、データの一元化管理に対する現場の反発もあり、DXの推進が進めづらい状況という問題点もあったのです。 そこで同社では、事業別だった営業本部を地域別へ変更し、DXを導入して得られる利益の共有を行いました。各営業所で対話集会を社長自ら開催し、社員1人ずつに具体例と共に、経営判断を効果的に行うために、データの一元化による見える化が必要であるという理解を求め、無事DX化を進めることができました。 安川電機では、2025年を目標に、安川電機では連結子会社70社でそれぞれ設定されていた勘定項目の統一や、30数社でのシステム面での統一などが進んでいます。 今後の新たな事業や顧客のデータ収集だけがDXの目的ではなく、会社としての足元を固めるための改革も、DXにより成し遂げられることの1つです。 参考:安川電機や三菱ケミカル、本気企業に学ぶ 失敗しないDX事例から学ぶ「DX戦略」を立てる3つのコツ
DXの戦略を立てる目的は、会社によってさまざまです。ここでは、自社の目的に合わせてDX戦略を立てるための3つのコツを、紹介した事例を元に解説します。自社のメイン顧客層を明確にする
自社の顧客層をつかみ、明確にすることはDX戦略における重要な要素です。 顧客の満足を目指すには、サービスや売っているモノの魅力を知る必要があります。 そこで大切なのが、顧客層を理解することです。企業が顧客ということもあれば、顧客が個人ということもあります。さらに顧客の中でも20代が多かったり、女性が多かったり、会社によってさまざまです。 顧客層の理解は、DX戦略の方向性を左右します。たとえば、BtoCの事業であれば、顧客の利便性を高めるアプリの開発やAI技術を活用した店舗内の混雑の解消といった戦略が挙げられます。 BtoBの事業で顧客が企業の場合は、商談状況の可視化や子会社間でのデータ連携といった、商談成立を目指した技術導入を戦略の中心とすることが挙げられます。 顧客満足を高めるために、顧客層を理解することで、DX戦略の方向性もより具体化できるでしょう。社内にあるデータを管理して顧客の行動を可視化する
成功事例に共通するのが、顧客に対してより利便性の高いサービス提供を意識した戦略を立案していることです。たとえばユナイテッド・スーパーマーケットのように新規顧客の獲得や、資生堂のような顧客のロイヤリティ化が挙げられます。 顧客にとっての利便性を知るには、どのような点に不便さを感じているのか、どのような時にサービスを必要としているのか理解する必要があります。そこで役立つのが、社内に蓄積されたデータです。 しかし、データを蓄積するだけでは可視化に繋がりません。次の4つのような、課題に直面することもあるためです。- あちこちの部署にデータが散在してしまう
- 品質の悪いデータと重要なデータが混ざってしまう
- データ管理システムが長年の改修・拡張で使いづらくなる
- データの管理コストが増大してしまう
外部コンサルに依頼することも検討する
DXを推進したいと思っていてもノウハウがないというケースも少なくありません。自社の状況に合わせ、適宜外部コンサルに依頼することを検討しましょう。 特に次のような企業はコンサルへの依頼をするのが良いでしょう。- 戦略を立てるのに必要なビジョンが固まっていない
- そもそも自社でシステムの開発経験やリソースがない
- どのようなデジタル技術を使えばよいか判断できない
- 自社を熟知した人材はいるがデジタルやITに精通した人材がいない